FeliMedix

コラム・インタビュー- COLUMN / INTERVIEW -

腰痛は謎解き ~脊椎外科トップ名医の診察・治療の流儀とは(前編)~

インタビュー

徳島大学大学院医歯薬学研究部運動機能外科学教室(整形外科)は、子供から高齢者まですべての年齢層のニーズに高いレベルで対応する「運動器」の専門家集団として、「情熱の国・徳島」において西良浩一教授を中心に国内最高レベルの診療・研究・教育を行っている。
西良浩一教授は、誰もが認める脊椎外科の日本トップ名医として、全国から来院する多くの腰痛・脊椎疾患患者に対し、「局所麻酔で行う全内視鏡下椎間板ヘルア摘出術(FED法)」などの先進的な診療・研究に取り組んできた実績を持つ。また、最新の治療法の普及と啓発のためにNHKテレビ 「プロフェッショナル・仕事の流儀」を始め数多くのテレビ番組に出演されるなど活躍の場を広げている。
世界レベルで活躍されている西良教授に、FeliMedix(フェリメディックス)株式会社の創業者で、現在は医療顧問の小野正文教授(香川大学医学部肝・胆・膵内科学先端医療学講座)が「局所麻酔で行うFED法手術」の有用性や診察の極意と流儀についてお話を伺った。

紹介

  • 氏名:西良 浩一(さいりょう こういち)
  • 徳島大学大学院医歯薬学研究部運動機能外科学教室(整形外科)教授(医学博士)
  • 1988年 徳島大学医学部卒業
  • 1994年 徳島大学大学院修了
  • 1995年 アイオワ大学脊椎センター(米国)留学
  • 1997年 徳島大学整形外科医員
  • 1998年 同・助手
  • 1999年 同・講師
  • 2003年 トレド大学整形外科(米国)留学
  • 2006年 徳島大学大学院運動機能外科講師復職
  • 2008年 日本整形外科学会脊椎内視鏡手術・技術認定医(後方手技)に認定
  • 2010年 帝京大学医学部附属溝口病院 准教授
  • 2013年 徳島大学運動機能外科学(整形外科) 教授
  • 氏名:小野 正文(おの まさふみ)
  • 香川大学医学部肝・胆・膵内科学先端医療学講座 教授(医学博士)
  • 東京女子医科大学付属足立医療センター内科 非常勤講師
  • FeliMedix株式会社創業者・医療顧問
  • 1990年 高知医科大学医学部医学科卒業
  • 1998年 高知医科大学大学院医学研究科修了
  • 1998年 高知医科大学医学部第一内科助手
  • 2000年 ベーラー医科大学感染症内科(米国)リサーチフェロー
  • 2001年 ジョンズホプキンス大学消化器内科(米国)リサーチフェロー
  • 2015年 高知大学医学部附属病院 准教授
  • 2019年 東京女子医科大学東医療センター内科 准教授
  • 2021年 香川大学医学部肝・胆・膵内科学先端医療学講座 教授

目次

① 腰椎椎間板ヘルニアとは
② 局所麻酔で行う全内視鏡下椎間板ヘルア摘出術(FED法)について
③ 出沢明教授との出会いと独自技術の進化について
④ 腰痛は謎解き

腰椎椎間板ヘルニアとは

小野先生:
先生のご専門の腰椎椎間板ヘルニアはどのような疾患なのでしょうか。また、どのような方に多いのでしょうか。

西良先生:
背骨に骨と骨の間にあるクッションのような組織が椎間板です。その内部にあるクッションが後ろの脊髄神経に向かって飛び出して、腰痛、下肢痛、足の痺れ、筋力低下を引き起こします。腰に負担のかかる職業の方、長距離運転に従事や、運動選手に多いです。

関連コラム記事

局所麻酔で行う全内視鏡下椎間板ヘルア摘出術(FED法)について

小野先生:
腰椎椎間板ヘルニアに対する、局所麻酔で行う全内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(FED法)について、概要と治療法の特徴をお教えください。また、先生がされるFED法の手術の特徴や他施設との違いをお聞かせください。

西良先生:
FED法には二種類あります。我々がおこなっているのは経椎間孔法(Transforaminal:TF法)と呼ばれるものです。局所麻酔で、後外側からアプローチします。一方、経椎弓間法(Interlaminar: IL法)はこれまで行ってきた全身麻酔Love法を全内視鏡を使用して行います。我々は局所麻酔で行えるメリットを考えTF法を行っています。8ミリ切開で、背筋に対する侵襲は最小です。翌日には退院可能で、軽作業であれば退院後より復職可能です。局所麻酔のため、高齢者や全身状態が悪い(心機能低下、肺機能低下など)方でも手術を受けることができます。

(手術では)内視鏡が神経にすごく近いところを通るので、ちょっとでも触れば神経を傷つけてしまう可能性があります。局所麻酔の場合、内視鏡が神経に近寄ったら患者さんが反応してくれるのですぐに分かります。それに対し、全身麻酔だと寝ているので神経が傷ついても分かりにくいため、全身麻酔で内視鏡手術をやる施設ではいくらかの確率で麻痺が出ています。だから、私は局所麻酔一筋なんです。

私は世界で最初に内視鏡を脊椎の横から挿入する狭窄症治療を局所麻酔で始め、それを世界に広げて有名になったため、高齢者がたくさん来院されます。特にN H K仕事の流儀に出演後は非常に多くの方が受診希望で予約が殺到しております。89歳や93歳の関東の方も徳島まで来て手術しました。心臓が悪く全身麻酔をかけたら心臓が止まるから手術は無理だと言われていた50代前半の北陸の男性も、うちだと局所麻酔なので問題ありません。腰が痛くてずっと座って歩けない状態だったのですが、手術ができてそれはもう喜んで帰られました。

世界でも、脊椎の後ろから挿入する全身麻酔の手術ばかりやっています。だから、横から局所麻酔でやっているのは珍しい、レアなんです。この手術を開発したアリゾナのトニー・ヤン先生は、私と同じく全例局所麻酔でT F法をおこなっています。ドイツの先生とディスカッションしたときに、「横から挿入すると神経を傷つけるから危険だ」っていうんです。何でかなと思って聞くと、全身麻酔でやっているからなんですね。全身麻酔したら危険なことは分かっているじゃないかと。だからアリゾナの先生も私も局所麻酔なんです。

関連コラム記事

出沢明教授との出会いと技術の独自進化について

小野先生:
先生が国内留学された帝京大学溝口病院の出沢明教授との出会いについてお教え下さい。また、帝京大学で現在のFED法の基礎を習得され、独自に発展なさったとお聞きしていますが、どのように学び、独自にさらに発展して来られたのでしょうか。

西良先生:
出沢教授はFEDを始める前、ESD(内視鏡的シリンジ使用椎間板ヘルニア摘出術)という内視鏡手技を行っておりました。全身麻酔で16ミリの切開が必要な手術です。私もESDを行っていましたので、以前より親交があり2010年に帝京大学溝口病院准教授として勤務することになったのです。そこでFEDの手技を学びました。出沢教授はその後、IL法(経椎弓間法)での狭窄症手術の開発に舵を切りました。DPEL法と呼ばれます。従来の方法より小さい範囲の皮膚の切開でできるのでそれもいい方法だと思うし、立派なゴールだと思います。ただ、全身麻酔で行うことはこれまでと同様なのです。

私は局所麻酔で行えるメリットを考え、独自にTF法(経椎間孔法)の開発を行なったわけです。私がやっている横から入れるというのは、今まで見たことない内視鏡画像の風景です。この方法の狭窄症手術は誰も手を出してない、つまりお手本がないんですよ。
ただ、やはり高齢者のためには、もうこれは絶対に局所麻酔での狭窄症手術をやるしかないとの想いでした。徳島は糖尿病患者さんが一番多い県ですし、心臓疾患も多いので大変な県ですからそれでどんどん進化させていきました。

お手本がないので、局所麻酔でどうやったら狭窄症を治せるだろうかと必死で考えながらでしたが、「後ろからの挿入ではこうやっていた、ああやっていた」という最終的なゴールは見えているんです。元々やっていた後ろから骨を削っているのを横からできないか、ということをずっとイメージを膨らませていきました。

帝京にいる時からそういう発想はあったのですが、徳島に帰ったら独自の手術トレーニングセンターがあるので、それでこのアイデアをやってみたら完璧に私の発想した通りにできて、これで絶対間違いないと確信しました。

新しい手術を開発した場合、それをすぐに患者さんに応用することはありません。トレーニングセンターでしっかりと自信がつくまで何度も手技を行います。
トレーニングセンターでは、若手に教える、腕を磨く、それとベテランは新しい手術を見つける、進化させるというのが基本です。定期的にセミナーも開いていますので、午前中はトレーニングセンターで勉強して、午後から私が実際の手術を見せますので、分かりやすいと思います。

関連コラム記事

腰痛は謎解き

小野先生:
腰痛は多くの方が悩まれており、治療が上手くいかないケースも多いとお聞きしています。腰痛診療における難しさについてお教ください。

西良先生:
内視鏡治療でも有名になりましたけど、やっぱり私が1番得意とするのは謎解きですね。
腰痛の85%は診断が難しいです。MRIで病変が見えるのはたった15%、残りの85%は謎の腰痛なので、しっかり話を聞かないと分からないんです。
足に症状が出ているものを“特異的腰痛”といい、また危ない骨折、感染や癌の転移などを伴う腰痛を“レッドフラッグ”というんですが、特異的腰痛とレッドフラッグの腰痛をあわせて15%です。それらはMRIを見ると大体(原因が)見えるので、話を聞かなくても原因が分かります。残り85パーセントは、“非特異的腰痛”といって足に症状がありません。MRIも基本問題なく原因が見えないのですが、腰に痛みがあるんですよ。

画像だけ見ていたら(原因が)見えません。この動作はできる、これは痛くてできないという話をしっかり聞いて、これはもう原因は椎間板に間違いないから、じゃあどこの椎間板なのかと考えます。そうやってある程度診断をつけてから画像を見ると、(原因が)見えてきます。関節だろうか、筋肉だろうかと言い出したら、いっぱいあるじゃないですか。この人の原因は絶対に関節だ、と分かったうえで見ていくと、その人の微妙な関節の変化が見えてくるんです。
そうじゃないとMRIの枚数はいっぱいあるし、いっぱい情報があるので、それ全部を見ていたら何十分もかかってしまいます。画像診断医と違うところは、ぼくらには問診の情報があります。問診があるからひたすら話が聞けるので、この辺が原因じゃないかと絞っていけます。

後半に続く

記事監修 小野正文について

小野正文 教授(医師・医学博士)
香川大学医学部肝・胆・膵内科学先端医療学 教授 
東京女子医科大学足立医療センター内科 非常勤講師
日本肝臓学会専門医・指導医・評議員
FeliMedix株式会社 創業者・医療顧問 
高知大学医学部大学院医学研究科卒。

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、メタボ肝炎の研究・診断・治療の我が国を代表する「トップ名医・研究者」の一人。NASH研究の世界的権威である、米国Johns Hopkins大学 AnnMae Diehl教授および高知大学 西原利治教授に師事。2011年から10年に渡り、診療指針の基準となる「NAFLD/NASH診療ガイドライン」(日本消化器病学会・日本肝臓学会)作成委員を務める。

受賞:2000年第13回日本内科学会奨励賞受賞, 2008年第43回ヨーロッパ肝臓学会(EASL)、
2008 Best Poster Presentation Award受賞など国際的に高い評価を得ている。また、NASHに関する和文・英文の著書・論文数は400編を超える。

代表論文:Lancet. 2002; 359(9310), Hepatology. 2007; 45: 1375-81, Gut. 2010; 59: 258-66, Hepatology. 2015; 62: 1433-43, Clin Gastroenterol Hepatol. 2022 Jan 17, など