【名医の極意】痔・肛門疾患を専門病院で治療すべき絶対的な理由とは 宮島伸宜先生インタビュー(前編)
松島病院は、1924年に横浜の地に内科・肛門病科の医院として開業して100年の歴史を持つ。
これまで一貫して痔・肛門疾患の領域に特化した質の高い専門医療を追求し、常に患者さんから信頼され、県内外から多くの難治性の肛門疾患(痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻など)の患者さんが来院する病院として進化を続けてきた。
宮島伸宜先生は、聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科の教授を務められ、痔・肛門疾患の第一人者として診療、研究に活躍して来られ、現在は松島病院の院長として全国から来院される患者さんに対し最先端の医療を提供している。
日本人の3人に1人は痔・肛門疾患にかかっているといわれる分野のスペシャリストとして活躍されている宮島院長に、FeliMedix(フェリメディックス)株式会社の創業者で、現在は代表医療顧問の小野正文教授(香川大学医学部肝・胆・膵内科学先端医療学講座)が「痔・肛門疾患を専門病院で治療すべき絶対的な理由」や「痔・肛門疾患治療の極意」などについてお話を伺った。
Contents
紹介
氏名:宮島 伸宜(みやじま のぶよし)
恵仁会松島病院 院長
経歴
1982年 慶應義塾大学医学部卒業
1985年 慶應義塾大学医学部外科学教室助手
1990年 医学博士号取得
1990年 藤田保健衛生大学医学部外科学講師
1997年 帝京大学医学部附属溝口病院外科助教授
2007年 聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科教授
2014年 聖マリアンナ医科大学東横病院 病院長に就任
2021年 恵仁会松島病院 副院長に就任
2021年 恵仁会松島病院 院長に就任
氏名:小野 正文(おの まさふみ)
香川大学医学部肝・胆・膵内科学先端医療学講座 教授(医学博士)
大阪大学大学院医学系研究科 招聘教授
東京女子医科大学付属足立医療センター内科 非常勤講師
FeliMedix株式会社 創業者・代表医療顧問
経歴
1990年 高知医科大学医学部医学科卒業
1998年 高知医科大学大学院医学研究科修了
1998年 高知医科大学医学部第一内科助手
2000年 ベーラー医科大学感染症内科(米国)リサーチフェロー
2001年 ジョーンズホプキンス大学消化器内科(米国)リサーチフェロー
2015年 高知大学医学部附属病院 准教授
2019年 東京女子医科大学東医療センター内科 准教授
2021年 香川大学医学部肝・胆・膵内科学先端医療学講座 教授
2024年 大阪大学大学院医学系研究科 招聘教授(併任)
痔・肛門疾患のスペシャリストを目指すきっかけ
小野先生:
宮島先生は聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科の教授をお勤めになり、現在も痔・肛門疾患の第一人者としてご活躍されています。
日本では痔・肛門疾患を専門とする医師はあまり多くないとお聞きしていますが、どのような経緯でこの領域のスペシャリストになろうと思われたのかお聞かせください。
宮島先生:
私はずっと大学病院におりまして、大腸を専門にしていました。
大腸を専門にしたというのは、当時は大腸がんというと手術しかない、抗がん剤は効かないという時代でありましたけれども、大腸がんで手術を行うと比較的予後が良かったということが大きな理由でした。
それと、手術後の患者さんの排便機能に非常に興味がありました。
大学でもずっと大腸の機能の方を研究してきたわけでございまして、機能を突き詰めていくと肛門にどうしても行き着いてしまいます。
肛門の治療をするにあたってやっぱり肛門疾患、特に痔は避けて通れないということで、痔の手術も積極的に行ってきました。
さらに、日本トップのところで改めて学び直したいというのもありましたので、この松島病院に勤めさせていただいたということです。
松島病院の特徴・優れた点
小野先生:
受診される患者さんにとって、大学病院と比べ、松島病院のすぐれた点はどのようなところか教えてください。
宮島先生:
一般病院、大学病院を含めて大腸の専門の先生はとてもたくさんおられます。
特に、大腸がんの名医とか炎症性腸疾患の名医というのはたくさんいらっしゃるんですけれども、肛門専門の先生というのは非常に少ないのが現状です。
各病院とも臓器に特化したドクターというのはいるわけですけど、大腸の先生が片手間に肛門を見ているわけです。
大腸は名人であっても、肛門が名人とは限らないことも事実です。
松島病院というのは肛門に特化した病院です。
肛門という狭い領域ではありますけれども、深く深く診察することができる病院ということが最大の特徴です。
そのための検査機器や治療機器は充実していると言っても間違いないと思います。
小野先生:
肛門疾患に関する専門の先生方が非常に多い、何人もいらっしゃるということですか。
宮島先生:
肛門に特化した10人を超える医師が在籍しています。
小野先生:
それはすごいですね。
松島病院は大腸肛門疾患の専門病院として全国的に有名ですけれども、特にどのような疾患の患者さんが全国から来られるのでしょうか?
宮島先生:
もちろん三大疾患と言われる痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻。この三大疾患が一番多いです。
肛門が専門の施設というのは松島病院に限らずいくつかございますけれども、一般病院ではなかなか治らないような複雑な痔瘻の方は、やはり専門の病院での治療が必要です。
そういう専門の病院での治療が必要な患者さんは県外から、地方からでもたくさん来られます。
それから、もう一点は排便機能障害の患者さんも多いです。
いわゆる便が漏れるであるとか、便秘を含めた排便障害ですね。
便意はあるけれども便がうまく出せないという患者さんも多いです。
そういう患者さんに対する専門の外来も備えております。排便障害の原因を調べるための検査や、治療機器も備えています。
肛門三大疾患だけでなく、直腸脱といって腸が出っ張ってくる病気であるとか、肛門機能不全、いわゆる外傷であるとか、お産の後であるとか、痔瘻の手術の後に括約筋が断裂してしまってその修復をしないといけないとか、そういう手術も行っています。
松島病院での検査・最新機器について
小野先生:
松島病院での大腸肛門疾患に対する検査や最新機器というもので特筆すべきものがありましたらお教えください。
宮島先生:
一般的な病院ではあまりおこなっていないものでは、直腸肛門の内圧検査といって、圧力を測る検査があります。
大学病院などでは直腸がんの術後に測ることが多いですが、それをどう解釈するか、というのが一番大きいところです。
内圧検査は痔瘻、裂肛、排便障害の患者さんにはほぼルーティンに行っています。
それから排便障害の患者さんに対する排便造影、ディフェコグラフィーと言うんですけども、便に見立てた疑似便を肛門の中に入れさせていただき、そこで排便する動作をしていただいて、それをシネ(X線動画撮影)で撮る。
そうするとどういうふうに便が出てくるかとか、臓器の固定状態がどうなっているかということもわかりますので、排便障害の患者さんにはとても有用です。
もう1点は肛門の専門病院では持っている機器だと思いますが、経肛門的な超音波検査です。
一般病院にも超音波検査はありますけども、それはお腹から行う検査です。
経肛門専用の機器というのがありまして、肛門に入れれば360度自動的にプローブが回って、短時間で肛門の筋肉や痔瘻の状態の正確な診断ができます。
その3つが特筆すべきことかな、と思います。
排便コントロールで大事なこと
小野先生:
肛門疾患において排便コントロールが重要だと思いますけれども、間違った排便コントロールを行っている場合が割と多いでしょうか。
宮島先生:
排便コントロールで大事なことは、排便時間と便の性状です。
太い便が頑張って出てきたら健康、というわけではなくて、ある程度の柔らかさを持った便が1~2分で終了するというようなことが大事かと思います。
だから1日に1回出ないといけないということはないし、1日2回でも2日に1回でも良い便がでていれば構わないというような指導をさせていただいています。
それから水分を摂っていただくことも重要です。
水分といっても、ノンカフェインの水分をどう摂っていただくかが大切です。
そういうことは口を酸っぱくして申し上げています。
小野先生:
カフェインがダメな理由って何かあるんですか。
宮島先生:
カフェインは、いわゆるコーヒー・紅茶、普通の緑茶です。
カフェイン系は利尿剤ですから、飲んだものは尿として流れてしまいますので便の方に行かないということです。
また一気に飲むと全部これも尿に出てしまいますので、1回50ccとか100ccぐらいをこまめに喉が渇いていなくても飲んでください、というような指導をさせていただいています。
排便の薬では、刺激性の下剤は極力飲まないようにお願いしています。
それから、漢方でも、大黄とかセンナが入ったものはやめてくださいとお願いしています。
小野先生:
それは、肛門に対してよろしくないということなんですか。
宮島先生:
肛門に対してというよりも、大黄系、センナ系というお薬は簡単に言いますと、疲れた腸に鞭打って無理やり動かすというお薬です。
そうしますと、腸が疲れ果ててしまうと、今度は働けと言っても働かなくなりますので、薬の量が増えてしまいます。
そうすると癖になるというような状況があります。
ですから、そういうタイプのお薬はなるべく使わないようにとお願いをしています。
非刺激性の下剤を使っていただく場合が多いのですが、非刺激性の下剤をいくら漫然と使っても、体に水分がないと効かないですから、必ず水分を摂るということを前提としてお薬を使ってください、ということが大事かと思います。
肛門専門のドクターにかかる重要性
小野先生:
いぼ痔や切れ痔は専門でないドクターが診察していることが全国には非常に多いのではないかと思いますけど、患者さんはどのようなことに気をつけることが大切でしょうか。
宮島先生:
漫然と薬を使っていても、すぐに、良くなるものではありません。
いぼ痔や切れ痔は基本的に生活習慣に大きく関わる状態だと思います。
水分であるとか食事の仕方であるとか、排便習慣であるとかが原因です。
いぼ痔というのは肛門の腫れですけれども、真っ平らになる方というのは、世界中で一人もいらっしゃいません。
正常でもある程度の膨らみが必ずあります。
それが出っ張りであるとか、出血であるとか痛みであるとか、症状が出てきた時にいぼ痔という病名になるわけです。
食事などの生活習慣と排便習慣を正すことがまず第一であって、その助けが薬というふうに思いますので、生活習慣や排便習慣の改善なしに薬を使っても治るものではないと患者さんにはお話ししています。
小野先生:
やはり生活習慣ありきということで、生活習慣の指導なく薬だけということはナンセンスだということなのですね。
近所のクリニックや病院にかかってもなかなか治らないという患者さんは多いのではないかと思いますが、そういった患者さんに関して先ほどの治療以外に何か特殊なものは何かありますでしょうか。
宮島先生:
特殊な治療というのは特別あるわけではないんですけれども、治療をするにあたって、まずはどんな治療をしても、生活習慣が良くならないとすぐに再発します。
例えばトイレに30分座っているような方は、本当に手術が適応のような大きないぼ痔であっても、まずは手術せずに生活習慣の改善からお願いします。
改善されて、なおかつ症状があるという方に対して手術治療を行います。
手術は一般的な入院をして治療するという方法と、最近話題のジオンというお注射の治療法がありますけれども、ジオンには合併症とか不具合がいくつか報告されていますので、基本的には一般的な手術をお勧めしています。
ただ、どうしても時間が取れないであるとか、お子さんが小さくて時間が取れないという方には日帰りの治療もあります。
小野先生:
お子さんに手術などの治療することもあるんですか。
宮島先生:
はい。例えば小学生までとか中学生ぐらいだと、いぼ痔が出ることはまずありません。
お子さんの場合は痔瘻でしょうか。
痔瘻に関してもいきなり手術ではなくて、炎症性腸疾患がないことを必ず確認した上で治療させていただきます。
小野先生:
炎症性腸疾患と合併することは結構あるんですか。
宮島先生:
かなり多いです。特に若い方で痔瘻になった場合には炎症性腸疾患の可能性を考慮に入れて、必ず大腸の検査をさせていただきます。
また、痔瘻の手術をするときでも、ただ切り開くだけでは肛門の括約筋が損傷する場合もかなりありますので、必要な場合には必ず筋肉は残すという手術をさせていただいています。